中京大学情報科学部 講師 宮崎慎也 大学院生 吉田俊介
ところで、VRを用いる利点は何であろうか?仮想空間でデザインができるようになれば、木や粘土などを使って実体モデルを作成する必要がなくなり、時間と費用を大幅に節約できるのは確かである。しかしそれ以上に重要なのは、コンピュータという道具が人間の創造性を飛躍的に高めるという事実である。デザインプロセスの早期段階では、実体モデルではなくアイデアスケッチと呼ばれる2次元的なスケッチを多数作成して試行錯誤を行うが、これを十分に行えることが良いデザインの製品を作り出す鍵ともいえる。仮想空間デザインにより、このアイデアスケッチを空間的なイメージで成し得る手段を提供することができれば、現在あるデザインのスタイルに大きな変化をもたらすのではないだろうか。
では、具体的にVRをデザインで用いるために克服すべき技術的課題は何であろうか?自動車デザインに関わらず、工業デザインで用いられてきた2次元のスケッチ画や、木や粘土、プラスチックなどを使った実物大模型をCGの立体視映像で代用するためには、CG映像の生成において、実際に製造される製品の形、大きさ、質感などの視覚に関する情報が忠実に再現できなければならない。製品の売れ行きを考えるならば、色や質感が優先されるであろうが、ここでは運転のしやすさ等の機能面の検討を重要視し、やはりまず第一に製品の形状情報がCG映像に忠実に再現されることに主眼をおいた。
a.、b. については、位置センサーや投影装置の精度の問題であるが、比較的狭い空間内のデザインであれば、現在の技術(補正処理等)で十分な精度を得ることができる。これに対し、c. については、人間の視覚機能に依存する問題なので、人間の視覚機能が十分明らかにされていない現在では、様々な種類の実験、調査が必要となるであろう。その中でも、人間が視差情報のみでどれほど正しく奥行きを知覚できるかという問題は興味深く、それに関する実験結果等が多く報告されているが、実験条件に依存したものが多く、未だ確定的な結果が得られてはいない。
立体視の装置を用いて、運転席に座って車内を見渡した場合を想定した実物体と仮想物体の奥行き知覚の違いについて実験を行った。立体視映像は右目用と左目用の2枚のCG画像を交互に生成し、それに液晶シャッター式眼鏡等を同期させることにより得られるが、今回は視差情報のみにたよって奥行きを知覚するように、暗幕で覆われた暗室内で立体的に影付けされた白い円錐を提示することとした。車内デザインでは、観察者の視点から 1m ぐらいの範囲で数ミリ程度の誤差に納まれば十分デザインが可能であると考え、それを目標とした補正方法の実現を目指している。今回の実験では、
などがわかり、今後の開発へ向けて重要な手がかりが得られた。
図1 立体視の実験装置の外観。視野角を十分大きくとれる大型スクリーンと磁界のゆがみによるセンサー精度の低下の心配がない光センサーを使用している。
図2 自動車内装の立体視映像(風景の町のデータは Performer Town のデータを使用)
【参考文献】